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年収400万円の独身男性は年金をいつからもらうべきか?作業療法士の私が“繰り下げ神話”に疑問を感じる理由

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「年金は繰り下げるとお得だ」

そんな言葉を、最近よく目にします。

確かに制度としてはそうです。65歳を基準に、年金の受給開始を75歳まで遅らせると、最大で84%も増額される。それだけ聞くと、たしかに繰り下げは“得”に見えるかもしれません。

けれども、私はこう思います。

「本当にそれは“得”と言えるのだろうか?」

作業療法士として高齢者の生活に深く関わる中で、私は数字の裏にある人間の老いのリアルを知っています。そしてその視点から見たとき、私は“繰り下げ受給”という制度に対して、ある種の違和感を抱かずにはいられません。

年収400万円、独身、厚生年金40年。80歳まで生きたらどの選択が得なのか?

まずは前提として、年収400万円の独身男性が、40年間サラリーマンとして働き、65歳時点で**年168万円(月14万円)**の年金を受け取れると仮定します。そして寿命は80歳。この想定で、年金の受給開始年齢を変えたときの累計受給額を見てみます。

60歳開始:月約10.7万円(▲24%)×20年=約2,560万円 63歳開始:月約12.7万円(▲9.6%)×17年=約2,584万円 65歳開始:月約14万円(基準)×15年=約2,520万円 68歳開始:月約17.5万円(+25.2%)×12年=約2,520万円 70歳開始:月約19.9万円(+42%)×10年=約2,380万円 75歳開始:月約25.7万円(+84%)×5年=約1,545万円

結果は一目瞭然で、63歳で受給開始するのが最も多く年金を受け取れる選択肢となります。つまり、「長く生きるから繰り下げて得する」という前提は、80歳までであれば成立しないのです。

作業療法士の視点:「80歳の現実」は想像以上に重い

ここからが私の本業としての視点です。

日々、私は病院や施設、訪問リハビリの現場で、数多くの高齢男性に接しています。そこで感じるのは、男性の身体機能や認知機能の低下は、80歳を迎える前後で急激に進行する傾向が強いということ。

70代前半までは一人で買い物に行けた方が、80歳を過ぎたあたりから急に歩けなくなったり、薬の管理ができなくなったり、認知症が進行したりするケースが本当に多いのです。

つまり、繰り下げで増えた年金を「自分の意思で」「自由に使える時間」は、想像以上に短い。むしろ、せっかく増えた年金が、介護施設の費用としてただ引き落とされていくだけ、そんな実例を数えきれないほど見てきました。

繰り下げという選択は「お金を自分で楽しめる時間」を縮めるリスクがある

制度上、75歳まで繰り下げることで年金は最大84%増えます。月額25万円を超える金額になるかもしれません。ですが、それを本当に自由に使えるかが問題です。

年金を「もらう」ことと「使える」ことは違います。

75歳で年金が25万円あっても、外食に行く気力がない。旅行にも行けない。判断力も落ちて、自分でお金の管理ができない。

そんな状態になってしまえば、それは「もらった」ことにならないのではないか。私はそう思います。

「年金は老後の生活費」だけではなく、「人生の楽しみのため」に使いたい

個人的には、63歳くらいで年金を受け取り始めて、まだ元気なうちに使うのが一番良いと考えています。

確かに受給額は少し減るけれど、そのぶん、動けるうちに自分のためにお金を使える。趣味、旅行、孫へのプレゼント、うまいものを食べに行く——そんな“人間らしい生活”を支えるお金になるなら、それは減額されていても、価値のあるお金だと思うのです。

結論:「繰り下げれば得」は、現場では必ずしも通用しない

数字だけを見れば、繰り下げはお得に見えます。でも、現実の老いのスピードは、制度設計の前提よりずっと早いのです。

年金の繰り下げを考えている人には、ぜひ「お金を使える体と頭が、あと何年あるか?」という視点を持ってほしいと思います。

健康寿命と金銭的寿命は別です。

お金があっても、自由がなければ意味がない。

だから私は、作業療法士としてこう言いたい。

年金は、“増やす”ことより“活かす”ことを考えてほしい。

「人生100年時代」の盲点──健康寿命と認知症発症年齢から見える“自由な時間”の現実へ続く

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